PEOPLE

世田谷という地が多様性ある魅力的な
「働くひと」たちの場であること、

地元に素敵な店舗や企業がいることを発信していきます。

御菓子司 竹翁堂(ちくおうどう) 店主 内田 巨峰さん
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三軒茶屋

地元に根づいた和菓子作りを行う三代目が考える、これからの三軒茶屋

御菓子司 竹翁堂(ちくおうどう) 店主 内田 巨峰さん

日本の四季を反映させた美しい和菓子づくり

 近年、若者が集う街として注目を集めている三軒茶屋。流行を意識した大衆酒場、高級食パン専門店等、注目のグルメスポットが建ち並び街の新陳代謝が進んでいる。そんな中、昭和初期から伝統の味を守り続け、地域の食文化を支えているのが、茶沢通りに店を構える昭和2年創業の老舗『竹翁堂』だ。名前の由来は、初代である内田信吉さんが修業に出向いていた青山の和菓子店。同店の屋号を暖簾分けの形で継承した。意外にもパンや洋菓子なども作るマルチな店として始まったが、戦中には和菓子専門店として営業するようになったという。

販売する和菓子のほとんどは手作業で作られている

販売する和菓子のほとんどは手作業で作られている

 この父・内田仁士さんの跡を継ぎ、現在店を切り盛りするのは三代目の巨峰さん。高校を卒業後、父の跡を継ぎ和菓子職人になることを決意。「店にいるだけでは知見が広がらない」と、20歳の頃に蔵前の和菓子店『榮久堂』の門を叩き匠の技術を磨いていった。「専門学校卒業の人もたくさんいたが、私はいわば素人。もちろん技術は敵わなかったけど、なんでも吸収できる柔軟性を評価していただき、みっちり教えてもらいました」と巨峰さん。5年ほどをかけて基礎的な技術を学んだ後、『竹翁堂』に戻ると、父の背中を見ながら店の技術を継承していった。

ショーケースには色鮮やかな和菓子が並ぶ

ショーケースには色鮮やかな和菓子が並ぶ

 こちらのこだわりは、和菓子を基本通り忠実に作ることだという。「春は桜餅や柏餅、夏は水羊羹と和菓子は本来四季によって商品ラインナップが変わっていくんです。いまでは通年商品が多く、四季の特色があまりない店もありますが、うちは四季折々の風情を和菓子で表現したいですし、皆様に味わってほしい」と巨峰さん。「世田谷みやげ」にも選ばれている名物「茶沢のあゆ」など、定番品を除いてはシーズンによって顔ぶれががらりと変わる。

  • 栗あんに白あんを練り込んだ上品な味わいの「和モンブラン」

    栗あんに白あんを練り込んだ上品な味わいの「和モンブラン」

  • 静岡の桜の葉を使った「桜餅」に、香り高い山形の蓬を練り込んだ「草餅」。奥は「茶沢のあゆ」

    静岡の桜の葉を使った「桜餅」に、香り高い山形の蓬を練り込んだ「草餅」。奥は「茶沢のあゆ」

美味しさと食の安全。老舗だからこそこだわる伝統的な和菓子

 食材へのこだわりも、昔ながらの和菓子屋ならでは。「最近の和菓子は洋風の物も多いですよね。うちの商品も時代のニーズに合わせて、チョコレートを取り入れたものがありますが、和菓子の心を忘れないちょっとした工夫があるんです」と巨峰さん。洋菓子は、生クリーム等の動物性脂肪が頻繁に使用されるが、こちらではそのすべてが植物性の食材。バレンタインシーズンに発売した「和ショコラ」も一見、洋菓子のようだが、素材はチョコレートの原料であるカカオマス。チョコレートそのものは使わず、あくまでも和菓子としての心を忘れずに、植物性の素材で作り上げている。

季節によってモチーフを変える「練りきり」やバレンタインシーズンにふさわしい「和ショコラ」「ショコラ餅」

季節によってモチーフを変える「練りきり」やバレンタインシーズンにふさわしい「和ショコラ」「ショコラ餅」

 「錦玉を固めるのはゼラチンではなく寒天だし、小豆も砂糖も小麦粉もすべて植物性。本来和菓子はすべて植物性のもので作るものですからね。当たり前のことなんだけど、いまはそれが当たり前じゃなくなってきているから」と、伝統的な和菓子作りへのリスペクトをみせる。もちろん、一つひとつの素材への思い入れもひとしお。小豆は北海道・十勝産の「特選小豆雅(みやび)」を使用するほか、添加物は一切使っていない。美味しさに加え、食の安全にもしっかりと気を使っているからこそ、取材中には「これなら子どもに食べさせられる」と子連れの家族が成分表示を見て安心して購入していく姿もあった。

カウンターで販売を行うのは妻の恵子さん。柔和な表情の優しい接客が特徴的

カウンターで販売を行うのは妻の恵子さん。柔和な表情の優しい接客が特徴的

新旧の事業者が意見を出し、時代に合った住みやすい街を作っていきたい

 「街があるからこそ、店の商売が成り立つ。どのように街を良くしていこうかと考えるのは当然のことです」。三軒茶屋銀座商店街振興組合の理事・青年部長も務める内田さんは、三軒茶屋の街の発展についても真摯に向き合っている。「流行の街」として、テナントが空けばすぐに埋まる三軒茶屋では、古くから住んでいる人と外部から流入してきた人材の“新旧の繋がり”が最も大切だと話す。「古くから周辺に住む人と、テナントを借りて“勝負”に来ている事業者さんとは、この街に対する意識が異なるのは当たり前だと思います。だからこそ、お互いの意見を出し合うことは大切。一方的に押し付けるのではなく、対話の中でより良い街づくりを行っていきたいです」と、移り変わりの激しい街だからこその地域課題を語ってくれた。

現在は内田巨峰さんと妻の恵子さんを中心に店を切り盛りする他、先代の仁士さんも「いちご大福」を作るなど店に携わっている

現在は内田巨峰さんと妻の恵子さんを中心に店を切り盛りする他、先代の仁士さんも「いちご大福」を作るなど店に携わっている

 大量生産が当たり前となっている世の中ではあるが、『竹翁堂』の姿勢は創業当時と変わらない。最低限の機械のみを導入して、あくまでも手作業にこだわる。このスタンスだからこそ、季節やシーズンによって異なる豊富な品数やちょっとしたアレンジを利かせた商品を作り上げることができるのだ。「店を大きくしようとか、ネット販売を行おうなどとは考えていません。私たちの商売は地域に根ざしたもの。あくまでも自分が目指す和菓子を作りながら、お客様の期待に応えていきたいです」と巨峰さんは、この街で営みを続けながら、自身の役割をしっかりと認識している。創業95年の老舗は街の発展と共に、これからも地域住民の食を支えていく。

  • 店内には初代の信吉さんが修業していた「竹翁堂」の看板が飾られてある

    店内には初代の信吉さんが修業していた「竹翁堂」の看板が飾られてある

  • 人通りの多い茶沢通りに佇む店舗

DATA
御菓子司 竹翁堂(ちくおうどう)

所在地:世田谷区太子堂 4-30-29

主な事業:製造・販売(和菓子)

連絡先:03-3421-4024

営業時間:10:00〜19:00

定休日:火曜

推薦者
世田谷区商店街連合会 青年部 栗山 和久